少女趣味こーなあ 長屋版

今月の少女趣味こうなあ 二十四

葉月       阪田 寛夫
こんやは二時間も待ったに 

なんで来てくれなんだのか
おれはほんまにつらい 
あんまりつらいから
関西線にとびこんで死にたいわ
そやけどあんたをうらみはせんで
あんたはやさしいて
ええひとやから
ころしたりせえへん
死ぬのんはわしの方や
あんたは心がまっすぐして
おれは大まがり
さりながら
わいのむねに穴あいて
風がすかすか抜けよんねん
つべとうて
くるしいて
まるでろうやにほりこまれて
電気ぱちんと消されたみたいや

ほんまに切ない お月さん
―「お月さん やて
あほうなことを云いました
さいなら わしゃもうあかへん
死ないでおれへん
電車がええのや
ガーッときたら
ギョキッと首がこんころぶわ
そやけど
むかしから
女に二時間待たされてからて
死んだ男がおるやろか
それを思うとはずかしい

 

虎さん 阪田 寛夫さん、(一九二五年〜二〇〇五年)大阪市生まれ。 詩人、小説家、児童文学作家、童謡「さっちゃん」「おなかのへるうた」などの作詞者としてもゆうめいですわ。

熊さん この大阪弁がよろしなあ、